【第7章】先輩と後輩

目の前に現れたホームレス。
白髪で、顔は薄汚れていて、頬はひびが入るほど、茶色にかさついていた。身長は150センチ前後だろうか、猫背で小さく見えるのかもしれない。とくに特徴的なのは、この凍るような地面の上で靴を履いていない事だ。スーパーのビニールを両足にくくりつけており、ジャバジャバと音を立て自転車を押しながら歩いているのだ。
本来なら声もかけないような人だが、どうやって生き凌いでいるのか、教えてもらいたかった。
「すいません!」
僕は、その女性に声をかけた。
しかし、全く反応しないまま、下を向いて歩いていく。
「すいません!おばちゃん!すいません!」
とうとう、肩を叩くしかないところまで擦り寄ってしまった。しかし、怯む事なく、僕は肩を叩いて声をかけた。
「すいません!どうやって生活してるんですか?」
今考えると唐突すぎる質問である。
おばちゃんは、歯の無い口を空け「あー」と言うと、また下を向いて歩き出した。しかし、ちょっとさっきと容姿が違う「とんしゃん、とんしゃん」と小さな声で歌いながら歩き出した。機嫌が悪いわけではなさそうだ。
僕は、しばらくおばちゃんについて行った。
「おばちゃん、どこに住んでるの?」
「おばちゃん、どうやって生活してるの?」
歩きながら、何度も声をかけるのだが、こちらも見ないし返事もしない。
しかし、しばらく人と話をしていなかった僕は、問いかけてるのか、独り言なのかわからない会話を続けた。
会社がダメになって住む場所も無くなって、どうしたらいいのかわからない。そんな話しをおばちゃんと一緒に歩きながらしていたのである。
すると、おばちゃんの住み家らしき場所に辿り着く。
それは24時間営業のスーパーと24時間営業の銭湯の間にある大量の室外機の中。熱風にも近い風熱が立ちこもっていた。
さすがである!
ここなら確かに、外であっても暖かい。
おばちゃんがここで初めて僕に手招きをしたんだ。
そして、指をさした。
ここが空いてる的なリアクション。
「おばちゃんここにしばらくお邪魔してもいい?」
僕は、おばちゃんに聞いたのだが、返事はしてくれなかった。
しかし、すごく眠たかったし、遠慮なんてしている余裕もない。先ほどのスーパーの裏にあったダンボールを数枚を拝借し、一旦、住みかとして確保した。この瞬間は、ほっとしたのである。
そのまま寝てしまった。どのくらいの時間が経過したのかは、わからないのだが、ものすごいガサガサとしたビニールの音で目が覚めた。
第8章へ続く・・・・。

24時間営業のスーパー銭湯(現在は閉店している)