【第12章】お金の本質

その日は、空き缶拾いに行かず、公園のベンチで、この状態から脱出する方法を考え込んだ。
まず第一ステップは、空き缶を拾わずにお金を稼ぐ方法だった。
一応、経営者だったのでマーケティング理論などを並べるも、ペンすら持っていない自分には、やはり当てはまらないのだ・・。
電気もなければ商品もない。
残されたものは、自分のみ。
そうか・・自分を売るしかないのか。
即座に浮かんだのが、音楽だった。
あの神様が言っていた事はこれか!!
芸は身を助けるというが、歌をうたって投げ銭を稼げばどうだろうか?
本当ならばギターが欲しいところだが、歌のみでやるしかない。
その夜、飲屋街に出かけ、僕は、電信柱の前に立ち、拾ったどんぶりを投げ銭皿として、ずっと歌をうたったのだ。
2時間ほどすると、もう声が出なかった。
結果は0円。
うまい歌でもないし、当然と言えば当然なのだが・・・。
僕は、寝床に歩きながら帰った。飲屋街の鏡ばりのビルを通過した時、ハッとしたのだ。
それは、鏡に映った自分自身で、僕のイメージするホームレスそのものであった。
頭もヒゲもボサボサで、頬も真っ赤になりひび割れていた。
これは・・ひどい。
確かに、歌っている時、通行人の目は、暖かい目では無かったのだ。
汚いものを見るような目。
もう、どのくらいこの生活を過ごしたのだろうか、日時の感覚が定かではないのだが、12月の上旬から、始まり、その時期が2月辺なのは間違いないので、2〜3ヶ月前後だと推測する。
僕は、次の日に思い切って、公園で衣服を洗濯し、濡れたまま着て、寝床の室外機の前に打たれ、乾燥させたのである。
そして、また次の日も、またその次の日も、歌をうたって芸事をしてみた。
しかし、全く手応えがないのだ。
これではさすがに、食えないので、ホームレスの先輩であるおばちゃんに、食料をわけてもらう始末。
なんとか、しないと・・・。
僕は、また公園のベンチで考えた込んだ。
自分を売る方法・・・。自分を売る方法・・・・。
その時だ、飼い主の手元から力ずくで逃げ、1匹のゴールデンリトリバーがこちらに走って飛びついてきた。
飼い主「すいませーん!!!ごめんなさい!!」
そのゴールデンリトリバーは僕の顔を力強く舐め、尻尾を降って興奮している。「あそぼ!あそぼ!」と今にも聞こえて来そうな勢いだ。
飼い主のおばちゃんはこう言った。
「ごめんなさい!この子全くしつけができてなくて困ってるのよ!」
僕はついつい
「ああ・・多分、家族内で上下関係が狂ってておばちゃんにアイコンタクトしないとこ見ると、この子、なめてますよ(笑) 僕、ドックトレーナーの資格持ってるんで なんとなくわかります。」
っとポロっと言ってしまった。(趣味程度にドッグトレーナーの資格を取っていたのである)
するとおばちゃんが「ええ!是非 お願いしたいわ。おいくらかかるの?」
その時に、ずっと考えていた自分を売るがつながった!
心の声で叫んだ。「これだぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ああ・・成果報酬で構いませんよ。報酬もお気持ちで結構ですし、ただ、ワンちゃんのご褒美が必要なのでお菓子だけ持って来てくださいね。」
そんな流れで、2時間預かり まずはお座りを教えてほしいと引き受けた。この子の名前は「あんず」だった。
まだ若い子なので遊びたくて仕方がない。若干の荒技だが上下関係を明確にするため目を合わせてマウントポジションを取る。
そして、遊びじゃない!今は遊んじゃいけない!という雰囲気を作り 少しずつ落ち着かせて 指導していく。
2時間もかからないうちにお座りを覚えた。
まぁ・・初めはお菓子ほしさではあるけど、ちゃんと「お座り」と「待て」をしつけた。
おばちゃんが迎えに来て、その2つを披露すると大感激!!「おいくら?おいくら?これでいい?」と言って10,000円をくれた。
僕は「いやいや!そんなに要らないですよ!半分でも多いくらいですが・・」
そういうとおばちゃんは では半分!5,000円ね・・あら、お釣りが無いわ、じゃあ明日もお願いできる?そういうわけで先に10,000円。
「キタァァァァァ!!!!」飛躍の瞬間である(笑)
明日の時間を決め、お礼を言ってその場を去った。
久しぶりに福沢諭吉との出会い、逢いたかったと心からのハグをした。
しかし、僕は、ここで勝負に出た。ホームセンターに行き、このお金で、安い作業着ジャケットと帽子、笛、リード、軍手を買い、より、ドッグトレーナーに見える服装を揃えた。
これは、正解だった。
あんず をトレーニングしていると、その公園では口コミで広がり・・すぐに13匹を受け持つ、ちょっとした人気ドックトレーナーになったのだ。
パーソナルブランディングの原型が芽生えたのは、この瞬間。
そう!人は、見た目で判断する。
そして、愛をもって提供すれば、愛が報酬として帰ってくる。
これが、自然の摂理。
そう理解した瞬間、ブーメランで頭に突き刺さった。
だとするなら、僕は、会社の経営を間違っていた。愛のない経営の結果だったんだ!
お金を稼ぐとこが、どこか悪ことでもあるように、思いながらも稼いでいた。
いや!違う・・。
1円が1ラブだとレート換算するならば、お金が沢山ある人は、愛を伝えた分の結果じゃないか・・
僕は、1ラブにも満たないものを、提供していたから、それが清算され現状を生み出しただけ。
自然の摂理はある法則によって流れているはずだから・・。間違いない!!
この時、僕はお金の本質を理解した気がしたのだ。
そして、ドックトレーナーとして1週間で7万円を手にしたのであった!
当然、空き缶拾いは卒業し、まずのミッションはクリアーした。
13章に続く・・・・。

ドッグトレーナーとして調教していた河川敷